外国人の不動産購入に規制はある?現行のルールを条文で確認する
国籍だけを理由に不動産の取得を制限する現行の仕組みはありません。効いてくるのは重要土地等調査法の特別注視区域(200㎡以上は事前届出)と、外為法の非居住者による取得後20日以内の報告です。条文にあたって整理します。
📑 目次
外国人の不動産購入に規制はある?現行のルールを条文で確認する
この記事は、すでに施行されている現行法だけを扱います。
審議中のものや報道段階のものは、成立して条文になってから扱います。「いつから始まるか」を知りたい方に、確定していないことを確定したように書かないためです。
「外国人は日本の不動産を買えないと聞いた」
「規制が始まるらしいけれど、いつから?」
結論から言うと、国籍だけを理由に不動産の取得を制限する仕組みは、いまのところありません。ただし「区域」と「居住者か非居住者か」で効いてくる制度が2つあります。この記事では、条文にあたって整理します。
誤解① 外国人は日本の不動産を買えない → 買えます
まず、外国人の土地取得を扱った法律は1本だけ現存しています。大正時代のものです。
外国人土地法(大正十四年法律第四十二号)第1条
帝国臣民又ハ帝国法人ニ対シ土地ニ関スル権利ノ享有ニ付禁止ヲ為シ又ハ条件若ハ制限ヲ附スル国ニ属スル外国人又ハ外国法人ニ対シテハ勅令ヲ以テ帝国ニ於ケル土地ニ関スル権利ノ享有ニ付同一若ハ類似ノ禁止ヲ為シ又ハ同一若ハ類似ノ条件若ハ制限ヲ附スルコトヲ得
読みにくい文語ですが、構造は単純です。この法律自体は、何も禁止していません。「勅令で禁止を定めることができる」という形になっています。
第4条も同じ形です。
同法 第4条
国防上必要ナル地区ニ於テハ勅令ヲ以テ外国人又ハ外国法人ノ土地ニ関スル権利ノ取得ニ付禁止ヲ為シ又ハ条件若ハ制限ヲ附スルコトヲ得
つまり、禁止するかどうかは勅令に委ねられているという仕組みです。なお、e-Gov法令検索で「外国人土地」を含む法令を調べると、この法律1本しか収録されていません。
ここでは確認できた事実だけを書いています。「したがって適用されていない」「事実上の空文だ」といった評価は、この記事では書きません。条文と法令検索で確かめられる範囲を超えるためです。
誤解② 重要土地等調査法は「外国人向けの規制」 → 国籍で切っていません
2021年にできた法律です。正式名称は長いので、通称で呼ばれます。
重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律(令和三年法律第八十四号・通称「重要土地等調査法」)
第2条 この法律において「土地等」とは、土地及び建物をいう。
2 この法律において「重要施設」とは、次に掲げる施設をいう。
一 自衛隊の施設並びに…合衆国軍隊の…施設及び区域 二 海上保安庁の施設 三 国民生活に関連を有する施設であって…政令で定めるもの
条文のどこにも「外国人」という言葉は出てきません。決まるのは区域と面積です。日本人同士の売買でも、条件に当てはまれば同じ扱いになります。
注視区域と特別注視区域は別のものです
混同されやすいので、分けて確認します。
| 注視区域 | 特別注視区域 | |
|---|---|---|
| 条文 | 第5条 | 第12条・第13条 |
| 範囲 | 重要施設の敷地の周囲おおむね千メートルの区域内・国境離島等の区域内 | 注視区域のうち、特に重要な施設・離島に係るもの |
| 売買のときの届出 | ありません | あります(事前届出) |
| 効く場面 | 利用状況の調査。機能を阻害する使い方をしていれば勧告・命令(第9条) | 売買等の契約の前に届出 |
ここが一番の誤解です。
「区域に入っている=売買に届出が要る」ではありません。届出が必要なのは特別注視区域だけです。注視区域は調査と、問題のある使い方への勧告・命令が中心です。
特別注視区域の届出(第13条第1項)
同法 第13条第1項
特別注視区域内にある土地等(その面積(建物にあっては、床面積…)が二百平方メートルを下回らない範囲内で政令で定める規模未満の土地等を除く。)に関する所有権又はその取得を目的とする権利の移転又は設定をする契約…を締結する場合には、当事者は、次に掲げる事項を…あらかじめ、内閣総理大臣に届け出なければならない。
「政令で定める規模」は、施行令に書かれています。
同法施行令 第4条(特別注視区域内において届出を要しない土地等の規模)
法第十三条第一項の政令で定める規模は、二百平方メートルとする。
200㎡未満なら届出は要りません。建物は床面積で見ます。届出の義務を負うのは当事者、つまり売主と買主です。
なお、調停などによって契約した場合は事前ではなく、契約を締結した日から起算して二週間以内の届出になります(同条第3項)。
自分の物件が区域内かを調べるには
区域の指定は官報で公示され、公示によって効力が生じます(第5条第3項・第4項、第12条第3項・第4項)。したがって、確認先は官報の公示と、内閣府が公表している区域の一覧・図面です。
誤解③ 外為法は「許可制」 → 事後報告です
もう1つが外国為替及び外国貿易法(外為法)です。こちらは「国籍」ではなく「居住者か非居住者か」で切っています。
外国為替及び外国貿易法 第20条(資本取引の定義)第10号
居住者による外国にある不動産若しくはこれに関する権利の取得又は非居住者による本邦にある不動産若しくはこれに関する権利の取得
この取引について、報告の義務があります(第55条の3第1項第12号)。中身は省令に書かれています。
外国為替の取引等の報告に関する省令 第12条(本邦にある不動産の取得等に関する報告)
非居住者が法第五十五条の三第一項第十二号に掲げる資本取引を行ったときは、当該非居住者は、第五条に規定する資本取引に該当する場合を除き、当該資本取引について、別紙様式第二十二による報告書一通を作成し、当該資本取引を行った日から二十日以内に、日本銀行を経由して財務大臣に提出しなければならない。
「取引を行った日から二十日以内」=取得したあとの報告です。
買う前に許可を取る仕組みではありません。取得そのものを止めるものではなく、決済までの手続きを妨げるものでもありません。
報告が要らない場合もあります
同省令第5条は、報告の対象から外れるものを挙げています。主なものは次の3つです。
- 非居住者が自己や親族・使用人その他の従業者の居住の用に供するために取得したもの
- 本邦で非営利目的の業務を行う非居住者が、その業務の用に供するために取得したもの
- 非居住者が自己の事務所の用に供するために取得したもの
「外国人」と「非居住者」は違います
外為法が見ているのは居住者か非居住者かであって、国籍ではありません。外国籍でも日本に住んでいれば居住者にあたり、この報告の対象から外れます。逆に、日本国籍でも海外に長く住んでいれば非居住者として扱われる場合があります。
「外国人だから報告が要る」という理解は、条文の切り方と合っていません。
「規制はいつから?」への答え
いま施行されていて、不動産の取得にかかわるのは上の2つです。
| 制度 | 施行 | 何をするものか | 基準 |
|---|---|---|---|
| 重要土地等調査法 | 施行済み(令和3年法律第84号) | 特別注視区域では売買等の事前届出 | 区域と面積(200㎡) |
| 外為法の報告 | 施行済み | 取得後20日以内の事後報告 | 非居住者かどうか |
| 外国人土地法 | 条文は現存 | 法律自体は禁止せず、勅令に委ねる形 | — |
これ以外に、国籍を理由として不動産の取得を制限する現行の仕組みは確認できません。
報道で「規制が検討されている」と伝えられることがありますが、この記事では、成立して条文になったものだけを扱います。検討段階のものを「始まる」と書くと、読む方の判断を誤らせるためです。
売買にかかわる方が確認すること
重要事項説明宅建業者が契約前に、物件や取引条件の重要な事項を宅地建物取引士が書面で説明すること。買主・借主が不利益を受けないための手続きです。の対象になるのは、どの部分か
宅地建物取引業法施行令 第3条第1項 第64号
重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律(令和三年法律第八十四号)第十三条第一項
列挙されているのは第13条第1項だけです。つまり重要事項説明の対象は「特別注視区域における事前届出」であって、注視区域そのものではありません。まとめて「重説事項」と説明すると、範囲を広く伝えすぎることになります。
実務で押さえる点
- 届出の義務者は当事者(第13条第1項)。売主・買主の双方にかかります。媒介する業者の義務ではありませんが、伝えていないと契約直前で止まります
- 面積は200㎡(施行令第4条)。建物は床面積で判断します
- 区域の該当は官報公示で決まります(公示によって効力が生じます)。区域図と公表資料にあたってください
- 外為法の報告は取得後です。取引の進行を止めるものではありません
- 国籍で判断しないこと。重要土地等調査法は区域と面積、外為法は居住者か非居住者かで決まります
確認の手順
- 対象不動産の所在地が特別注視区域に入っているかを、官報公示と内閣府の公表資料で確認します
- 入っている場合、面積が200㎡以上かを確認します(建物は床面積)
- 両方に当てはまるなら、契約の前に届出が必要です。届出の主体は当事者です
- 買主が非居住者にあたる場合は、取得後の報告(20日以内・日本銀行経由)について案内します。ただし居住の用・事務所の用などは報告そのものが不要です
参照法令(e-Gov法令検索)
外国人土地法(第1条・第4条)/ 重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律(第2条・第5条・第9条・第12条・第13条)/ 同法施行令(第4条)/ 外国為替及び外国貿易法(第20条・第55条の3)/ 外国為替の取引等の報告に関する省令(第5条・第12条)/ 宅地建物取引業法施行令(第3条)
免責:本記事は現行法の一般的な解説です。個別の区域該当・届出の要否については、内閣府・所管行政庁および専門家にご確認ください。
この記事を書いた人
小野海士宅地建物取引士株式会社オッティモ 代表取締役
不動産実務15年。東京都荒川区を拠点に、相続・空き家・訳あり物件の買取や売却のご相談を全国対応で手がける。「他社に断られた物件」の相談を数多く受けてきた経験から、難しい不動産の手放し方を分かりやすく解説している。不動産業者向け業務SaaS「anken.」の開発者でもある。
公開日 最終更新
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